こんにちは、エアコンラボのアキです。
「工事のいらないポータブルエアコンなら手軽そうだけど、電気代は壁掛けエアコンと比べてどうなんだろう」。そう思って検索したものの、出てくる記事によって「1時間20円」「1時間35円」と数字がバラバラで、結局どれを信じればいいのか分からない。そんな状態でこのページにたどり着いた方が多いのではないでしょうか。
先に、この記事のいちばん大事な結論をお伝えします。ポータブルエアコン(排気ダクト式)と壁掛けエアコンは、そもそも公表されている数値の種類が違うため、カタログ値をそのまま並べて「どちらが何円安い」と比較することができません。理由は、両者が省エネ法や日本産業規格(JIS)の中でまったく違う扱いを受けているからです。
この記事では、その「比較できない理由」を法令とメーカーの公表値までさかのぼって確認したうえで、公表値だけを使ってどこまでなら言えるのかを整理します。すでに壁掛けエアコンをお使いの方が、もう1部屋分をポータブル機や窓用エアコンで補うべきか判断するための材料として書きました。
- ポータブル(排気ダクト式)・窓用・壁掛けの、構造上の違い
- ポータブル機と窓用エアコンが省エネ法の対象かどうか(条文で確認)
- JIS C 9612:2013の数値が公表されているのはどの機種か
- 同じメーカー・同じ規格の範囲でだけ成立する、期間消費電力量の比較
- 「1時間◯円」の早見表がこのテーマで作れない理由

エアコンのポータブル型と壁掛け型、電気代以前に構造が違う
まず、言葉の整理からです。「ポータブルエアコン」「スポットクーラー」「窓用エアコン」は、店頭では似た売り場に並んでいますが、熱の捨て方がそれぞれ違います。この違いが、後で出てくる「比較できない」という話に直結します。
排気ダクト式のポータブル機は、部屋の空気を屋外へ出している
キャスターで移動できる箱型のポータブルクーラーは、圧縮機も熱交換器も本体1台の中に入っています。冷やすときに出る熱は、本体から伸びた排気ダクトを窓パネル経由で屋外へ捨てる仕組みです。
ここで重要なのは、その排気に何が使われているかです。アイリスオーヤマはポータブルクーラーの商品情報ページで、この構造を次のように説明しています。付属の窓パネルからダクトを通して室外へ排熱。換気扇のように室外へお部屋の空気を排出するため、空気の入れ替えにもなります、と。同社の総合カタログにも同じ説明があり、排気ダクトの寸法は約30cm〜150cm、付属の窓パネルは高さ75cm〜145cmの窓に対応、別売の長い窓パネルを使えば高さ200cmの窓まで対応できると記載されています。
つまり排熱に使われているのは「お部屋の空気」です。メーカーはこれを「換気にもなる」というメリットとして説明していますが、冷房という目的だけを見ると、いったん室内にあった空気を屋外へ捨てていることになります。捨てた分の空気は、どこかから室内に入ってきます。この点について、私が調べた範囲では、国内メーカーが「入ってくる外気の量」や「それによる能力の低下率」を数値で公表している例は見つかりませんでした。数字がない以上、「何パーセント損をする」という言い方はこの記事では書きません。
窓用エアコンは室外機が一体で、窓枠に据え付ける
一方の窓用エアコン(ウインドエアコン)は、室外機に相当する部分が本体と一体になっていて、それを引き違い窓の開口部にはめ込んで固定します。排気ダクトは使いません。壁に穴を開けない点はポータブル機と同じですが、据え付けたら基本的に動かさない機器です。
コロナの製品ページによると、据え付けには窓の開き幅が38cm以上(冷暖房兼用タイプは49.5cm)必要で、引き違い窓以外の窓には据え付けできないとされています。設置場所の自由度はポータブル機より低い代わりに、後述するとおり、公表されている数値の種類は壁掛けエアコンにかなり近くなります。
3つのタイプの違いを表で整理する
| 項目 | ポータブル(排気ダクト式) | 窓用(ウインド形) | 壁掛け(セパレート形) |
|---|---|---|---|
| 熱を捨てる場所 | 本体の排気口からダクトで屋外へ | 窓枠にはまった本体の屋外側 | 配管でつながった室外機 |
| 排気に使う空気 | 室内の空気(メーカーが明記) | 屋外側で処理 | 屋外側で処理 |
| 設置工事 | 不要(窓パネルを窓にはめる) | 取付枠を窓に固定 | 壁の穴あけと配管工事 |
| 移動 | キャスターで移動できる | 据え付け後は移動しない | 移動しない |
| 省エネ法の特定エネルギー消費機器 | 該当しない(適用除外) | 該当しない(適用除外) | 該当する(冷暖房兼用の場合) |
いちばん下の行が、この記事の核心です。次の章で、その根拠になっている条文を実際に見ていきます。
エアコンのポータブル機は省エネ法の対象外。電気代の前提が違う
壁掛けエアコンの省エネ性能が数値で比べられるのは、省エネ法(エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律)のトップランナー制度によって、メーカーが決められた方法で測って表示する義務を負っているからです。では、ポータブル機や窓用エアコンはどうなのか。
まず「エアコンディショナー」は特定エネルギー消費機器に入っている
省エネ法施行令の第18条は、トップランナー制度の対象になる機器(特定エネルギー消費機器)を列挙しています。その第2号が、エアコンディショナー(暖房の用に供することができるものを含み、冷房能力が五十・四キロワットを超えるもの及び水冷式のものその他経済産業省令で定めるものを除く。)です。
ここで注目したいのが、末尾の「その他経済産業省令で定めるものを除く」という一文です。除外される中身は政令ではなく、省令のほうに書かれています。
施行規則第92条が、ポータブル機と窓用機を名指しで除外している
その省令が、エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律施行規則の第92条(特定エネルギー消費機器の適用除外)です。「令第十八条第二号の経済産業省令で定めるエアコンディショナーは、次に掲げるものとする」として16項目が並んでいます。そのうち、この記事のテーマに直接関わるのは次の項目です。
- 第五号: スポットエアコンディショナー
- 第七号: 室外側熱交換器の給排気口にダクトを有する構造のもの
- 第十三号: 冷房の用のみに供するもの
- 第十四号: 窓に設置される構造のもの
- 第十五号: 壁を貫通して設置される構造のもの
第七号の「室外側熱交換器の給排気口にダクトを有する構造のもの」が、まさに排気ダクト式のポータブルクーラーの構造です。第五号のスポットエアコンディショナーも名指しで挙がっています。そして第十四号で窓用エアコンが、第十三号で冷房専用機が、それぞれ除外されています。
整理すると、ポータブル(排気ダクト式)・スポットクーラー・窓用エアコンはいずれも省エネ法の特定エネルギー消費機器ではありません。さらに、冷房専用であれば壁掛けタイプであっても対象外です。ここに挙げた16項目は法令の条文そのものなので、メーカーの都合や売り方とは関係なく決まっている線引きです。
ポイント: 「省エネ法の対象外」は、その製品が粗悪だという意味ではありません。国が決めた目標基準に照らして評価される仕組みの外にある、という意味です。だからこそ、評価のものさしを揃えないまま数字を並べることに無理が出ます。
対象外だと、カタログから何が消えるのか
省エネ法の対象になっている壁掛けエアコンのカタログには、通年エネルギー消費効率(APF)、省エネ基準達成率、目標年度がセットで載っています。アイリスオーヤマの総合カタログでは、この関係が「省エネルギー法の評価基準であるAPFは2013年に発行されたJIS C 9612に基づきます」「APF=1年間で必要な冷暖房能力の総和÷期間消費電力量」「『省エネ基準達成率』は、省エネ法に定められた2027年度基準、または、2029年度基準に対する達成率を示しています」と説明されています。
逆に言えば、制度の対象外である窓用エアコンやポータブル機には、省エネ基準達成率も目標年度も付きません。実際、コロナのウインドエアコンの製品詳細ページには期間消費電力量は載っていますが、省エネ基準達成率と目標年度の欄そのものがありません。APFや期間消費電力量の測り方の中身については、エアコン2台の電気代を比較した記事で詳しく扱っていますので、そちらもあわせてご覧ください。
エアコンのポータブル機の電気代は、公表値が揃わないから計算できない
ここからが実務的な話です。省エネ法の対象かどうかは、そのままカタログに載る項目の違いになって現れます。実際に公表されている数値を見ていきましょう。
ポータブルクーラーが公表しているのは、自社基準の「冷風能力」
アイリスオーヤマのルームエアコン総合カタログ(2026年版)の仕様表と、同社のポータブルクーラーの商品情報ページから、電気に関わる項目を抜き出したのが次の表です。特定の機種をおすすめする意図はなく、あくまで「公表されている項目の種類」を確認するために引用しています。
| 品番 | 適用畳数(注1) | 冷風能力(注2) | 冷風消費電力(50/60Hz) | 冷媒 | 質量 |
|---|---|---|---|---|---|
| IPA-2326S-I | 4.5〜7畳 | 2.0/2.3kW | 650/730W | R32 | 20.0kg |
| IPK-2306SV-W | 4.5〜7畳 | 2.3kW | 670/(245〜905W) | R32 | 19.0kg |
| IPA-2826U-W | 7〜10畳 | 2.5/2.8kW | 830/980W | R32 | 22.0kg |
| IPA-3526U-W | 8〜12畳 | 3.5kW | 900/(450〜1,250W) | R32 | 23.5kg |
| ICA-0303G-W | (コンパクトクーラー) | 記載なし | 160/190W | R134a | 12.5kg |
(注1)カタログの注記は「当社自主基準(環境試験室30℃、70%、強運転)で評価した冷風時の目安の畳数です。使用環境によって性能が異なる場合があります」となっています。(注2)商品情報ページの注記は「冷風能力については当社自社基準の下記の条件で測定した値です。(冷風能力は、空気条件30℃、相対湿度70%強運転時の値です。)」です。同社のポータブルクーラー総合ページのよくある質問でも、冷房能力を尋ねる項目に対しては「当社商品では最大12畳まで対応可能です」「※自社基準で評価した目安の畳数になります」と、畳数で答えるかたちになっています。
ここが、この記事でいちばん誤解されやすいところです。「能力の数字がまったく出ていない」わけではありません。出てはいるのですが、名前も測り方も壁掛けエアコンとは別のものです。
- 公表されているのは「冷房能力」ではなく「冷風能力」で、測定条件はJIS C 9612:2013ではなくメーカーの自社基準(空気条件30℃・相対湿度70%・強運転)
- 期間消費電力量(kWh)が載っていない
- APF(通年エネルギー消費効率)が載っていない
- 畳数の目安も、JISではなくメーカーの自主基準に基づく
効率というのは「取り出した能力 ÷ 使った電力」で決まります。冷風能力2.5kWと消費電力830Wという2つの数字だけを見れば、割り算そのものはできてしまいます。問題は、その割り算の答えを壁掛けエアコンの値と並べられないことです。壁掛けエアコンの冷房能力はJIS C 9612:2013で決められた条件で測った値、ポータブルクーラーの冷風能力はメーカーが自分で決めた条件で測った値で、測定条件が同じだという保証がありません。ものさしの目盛りが違うまま割り算の結果だけを比べると、数字は出るのに意味がない、という状態になります。
窓用エアコンはJIS C 9612:2013の数値を公表している
同じ「工事不要」でも、窓用エアコンは事情が違います。コロナのウインドエアコン冷房専用シリーズの製品詳細ページには、「(JIS C 9612:2013)期間消費電力量」という見出しのもとに具体的な数値が載っています。たとえばCW-FA1626Rの公表値は、期間消費電力量350/400kWh、能力1.4kW(50Hz)/1.6kW(60Hz)、消費電力550W(50Hz)/635W(60Hz)、畳数のめやす4〜6畳(50Hz)/4.5〜7畳(60Hz)です。
さらに同シリーズの特長ページには、この数値の条件が明記されています。期間消費電力量350kWh(CW-FA16タイプにおいて冷房期間のみ50Hz時。60Hz時は400kWh)。JISに基づくAPFから算出された期間消費電力量。算出基準の外気温度条件は、東京をモデルにしています、という注記です。
つまり窓用エアコンは、省エネ法の対象外でありながら、壁掛けエアコンと同じJIS C 9612:2013の考え方で測った数値をメーカーが自主的に公表している、という位置づけになります。ここが、ポータブル機との決定的な差です。
だから「1時間◯円」の早見表は、この記事では作れません
電気代の記事にはよく、機種タイプごとの「1時間あたり◯円」「1か月◯円」という早見表が載っています。ですが、ここまで見てきたとおり、この記事のテーマでその表を作ろうとすると、必ずどこかで数字を自分ででっち上げることになります。
- ポータブル機の能力はメーカー自社基準の「冷風能力」であり、JIS C 9612:2013の冷房能力とは測定条件が違うため、同じ仕事量に揃えて比べられない
- 畳数の目安が、片方はJIS、片方はメーカー自主基準で、意味が違う
- 期間消費電力量が公表されているのは窓用と壁掛けだけで、ポータブル機にはない
- 「定格消費電力×使用時間」で出した金額は、圧縮機が常に全開で回り続けた場合の値であり、実際の運転とは別物
条件を書かずに数字だけを並べた表は、読みやすい代わりに、読者を間違った判断へ誘導します。この記事では、作れない表は作らないという方針を取ります。作れないという事実そのものが、機種選びのうえで意味のある情報だと考えているからです。
エアコンのポータブル代替として窓用機を見ると、電気代の比較ができる
とはいえ、まったく何も言えないわけではありません。同じメーカーが、同じJIS C 9612:2013に基づいて公表している数値どうしであれば、条件を明示したうえで並べることができます。ここではコロナが公表している値を使います。壁掛けと窓用の両方を作っているメーカーなので、構造の違いだけを取り出しやすいという理由で選びました。
同一メーカー・同一規格で並べた期間消費電力量
| 項目 | 壁掛け CSH-N2226R | 窓用(冷暖房兼用) CWH-A1826R | 窓用(冷房専用) CW-FA1626R |
|---|---|---|---|
| 期間消費電力量(JIS C 9612:2013) | 717kWh | 1,316kWh(50Hz)/1,480kWh(60Hz) | 350kWh(50Hz)/400kWh(60Hz)※冷房期間のみ |
| 冷房能力 | 2.2kW(0.8〜3.0kW) | 1.6kW(50Hz)/1.8kW(60Hz) | 1.4kW(50Hz)/1.6kW(60Hz) |
| 冷房時の消費電力 | 580W(165〜810W) | 640W(50Hz)/755W(60Hz) | 550W(50Hz)/635W(60Hz) |
| 暖房能力 | 2.2kW(0.8〜3.9kW) | 1.8kW(50Hz)/2.2kW(60Hz) | なし |
| 畳数のめやす(冷房) | 6〜9畳(10〜15m2) | 4.5〜7畳(50Hz)/5〜8畳(60Hz) | 4〜6畳(50Hz)/4.5〜7畳(60Hz) |
| APF | 5.8 | 公表なし | 公表なし |
| 省エネ基準達成率 | 87%(目標年度2027年) | 公表なし | 公表なし |
この表を読むときの注意点を3つ挙げます。
1つ目。冷房専用機の350kWhと、冷暖房兼用機の1,316kWhを直接比べてはいけません。メーカーが明記しているとおり、350kWhは冷房期間のみの値です。冷暖房兼用機の値にはその注記がなく、暖房期間を含んだ数字として扱う必要があります。「窓用のほうが350kWhで安い」という読み方は完全な誤読です。
2つ目。能力が揃っていません。壁掛けのCSH-N2226Rは冷房2.2kW、窓用のCWH-A1826Rは冷房1.6kW(50Hz)です。畳数のめやすも6〜9畳と4.5〜7畳で違います。つまり同じ広さを冷やす条件での比較にはなっていません。
3つ目。そのうえで見ると、能力が小さいほうの窓用冷暖房兼用機のほうが、期間消費電力量は約1.8倍大きい(717kWhに対して1,316kWh、いずれも50Hz)という結果になっています。より小さい能力で、より多くの電力量を使う。同じメーカーが同じ規格で測った値なので、この方向性自体は信頼していい情報だと私は考えています。
統一省エネラベルの算出方法を当てはめるとどうなるか
期間消費電力量は「kWh」なので、電力量単価を掛ければ金額の目安になります。ここで勝手な単価を持ち出すと創作になってしまうので、国の制度で使われている単価と算出方法をそのまま使います。
資源エネルギー庁が公開している省エネラベルガイドブックによると、統一省エネラベルの年間の目安電気料金は、電力・ガス取引監視等委員会「電力取引報」を活用し、直近3年分の平均値(小数点第1位を四捨五入)から、1kWhあたり27円(税込)として算出すると説明されています。また目安電気料金は「東京の外気温度を前提に算出」しており、地域・設定温度・使用時間・住宅性能・電力会社によって異なるとも明記されています。
この式(期間消費電力量×27円/kWh)を、先ほどの3機種にそのまま当てはめると次のようになります。
- 壁掛け CSH-N2226R: 717kWh×27円=19,359円
- 窓用(冷暖房兼用) CWH-A1826R: 1,316kWh×27円=35,532円(50Hz)
- 窓用(冷房専用) CW-FA1626R: 350kWh×27円=9,450円(50Hz・冷房期間のみ)
念のため強調しておきます。これは統一省エネラベルの算出方法を機械的に当てはめた参考値であって、窓用エアコンは制度の対象外なので、実際にこの金額がラベルとして表示されるわけではありません。冷房専用機の9,450円は冷房期間分だけであり、他の2つと横並びにできる数字でもありません。単価そのものも、契約プランによって変わります。単価の考え方についてはエアコンとテレビの電気代を比較した記事で、27円/kWhと31円/kWhという2つの系統の単価がなぜ併存するのかを整理しています。
ポータブル機ではこの計算自体ができない
同じ計算をポータブルクーラーでやろうとすると、そこで手が止まります。掛ける相手にあたる期間消費電力量が見当たらないからです。今回は、アイリスオーヤマの総合カタログと商品情報ページの仕様表に加えて、経済産業省・資源エネルギー庁の省エネ型製品情報サイト(エアコンの登録機種を型番で検索できる国のデータベース)も確認しましたが、ポータブルクーラー・スポットクーラー・窓用エアコンの型番はいずれも登録がありませんでした。省エネ法の対象外である以上、国のデータベースに載らないのは制度上そのとおりで、期間消費電力量を国側から拾ってくることもできません。
代わりに「冷風消費電力650W×使用時間×27円」と計算することはできますが、それは圧縮機が650Wで回り続けた場合の上限に近い値です。実際の運転では室温に応じて出力が変わりますし、インバーターを搭載した機種(表のIPK-2306SV-Wでは245〜905Wという幅で公表されています)ではさらに変動します。この掛け算の結果を「電気代の目安」として提示するのは、条件を書いたとしてもかなり乱暴です。だから私は書きません。
エアコンのポータブル機を電気代以外の軸で判断するための材料

ここまでの内容だけだと「結局どうすればいいのか」が残ると思うので、壁掛けエアコンをすでに持っている方が、追加の1台を検討するときに確認できることを整理します。
比較の順番を変える
電気代から入ると、公表値が揃っていないせいで必ず行き詰まります。そこで順番を入れ替えます。
- その部屋に窓用エアコンを据え付けられるか確認する(引き違い窓か、開き幅が38cm以上あるか。冷暖房兼用タイプは49.5cm以上)
- 据え付けられるなら、窓用エアコンはJIS C 9612:2013の期間消費電力量が公表されているので、壁掛けと同じ土俵で数値を確認できる
- 据え付けられない場合や、移動して使いたい場合に、はじめてポータブル機が候補になる
- ポータブル機を選ぶ場合は、電気代の比較は諦めて、消費電力の実数(W)と使用時間の見込みだけで上限を把握する
この順番なら、比較できるものは比較し、比較できないものは比較しないという扱いができます。
すでにある壁掛けエアコンと併用する場合に確認すること
- コンセントの系統: 表に挙げたポータブルクーラーはいずれも単相100Vで、消費電力は650W〜900W(50Hz)の範囲です。壁掛けエアコンと同じ分岐回路から取ると、他の家電と合わせて容量が厳しくなることがあります
- 排気ダクトの取り回し: 排気ダクトの寸法は約30cm〜150cmとされており、窓から本体までの距離がこの範囲に収まるかを先に測っておく
- 窓パネルの対応高さ: 付属品で高さ75cm〜145cm、別売の長い窓パネルで200cmまでという記載があります。掃き出し窓の場合は注意が必要です
- 排気の逃がし先: アイリスオーヤマは「同室内に排熱すると室温が上昇します。ダクトの併用を推奨します」と注記しています。ダクトを使わない運用は、冷房としては成立しません
- 吸気口と排気口の距離: 同社はショートサーキットを「吸気口(吸気ファン)と排気口(排気ファン)の位置が近すぎて、狭い範囲で空気が循環してしまう現象」と説明しています。設置場所の余裕も確認しておきたいところです
古い壁掛けエアコンがある場合は、まず本体の状態を確認する
「今の壁掛けエアコンが効かないからポータブル機を足そう」と考えている場合は、順番が逆になっているかもしれません。壁掛けエアコンは省エネ法の対象機器で、省エネ基準達成率や目標年度が公表されています。今お使いの機種の値を確認したうえで判断したほうが、追加購入より効果が大きいこともあります。判断の材料は古いエアコンの買い替え時期を扱った記事にまとめています。
エアコンのポータブル機と電気代に関するよくある質問(FAQ)
Q1. ポータブルエアコンとスポットクーラーは同じものですか?
A. 販売上の呼び分けと、法令上の扱いを分けて考える必要があります。省エネ法施行規則第92条では、適用除外の第五号に「スポットエアコンディショナー」、第七号に「室外側熱交換器の給排気口にダクトを有する構造のもの」がそれぞれ挙げられており、どちらの表現でも結果として特定エネルギー消費機器からは外れます。メーカー側の売り場では、家庭向けをポータブルクーラー、工場や倉庫向けをスポットクーラーと呼び分けている例があります。
Q2. ポータブルエアコンのAPFはどこを見れば分かりますか?
A. 今回確認した範囲では、どこにも載っていませんでした。APFは省エネ法の評価基準としてJIS C 9612に基づいて算出される値で、省エネ法の対象外である排気ダクト式の機器には表示義務がないためです。確認したのは、アイリスオーヤマの総合カタログ(2026年版)の仕様表、同社ポータブルクーラーの商品情報ページ、そして国の省エネ型製品情報サイトの3つです。商品情報ページには冷風能力(kW)と冷風消費電力(50/60Hz)が載っていますが、APFも期間消費電力量もありませんでした。省エネ型製品情報サイトでは、ポータブル機の型番はそもそも検索に引っかかりません。
Q3. 窓用エアコンなら壁掛けと同じ基準で選べますか?
A. 期間消費電力量については、JIS C 9612:2013に基づく値がメーカーから公表されているため、条件をそろえれば比較の材料になります。ただし省エネ法の特定エネルギー消費機器からは除外されているため、省エネ基準達成率や目標年度は付きません。「基準に対して何パーセント」という物差しは使えない、という前提で数値を見てください。
Q4. 冷房専用の壁掛けエアコンも省エネ法の対象外なのですか?
A. はい。施行規則第92条第十三号に「冷房の用のみに供するもの」が適用除外として挙げられています。壁掛けの形をしていても、冷房専用機であれば特定エネルギー消費機器ではありません。実際、アイリスオーヤマの冷房専用モデルIHF-2202SC-Wのカタログ表記は、期間消費電力量315kWh、冷房能力2.2kW(0.2〜2.4kW)、消費電力675W(150〜850W)、畳数の目安6〜9畳(10〜15m2)となっており、期間消費電力量は載っていますが、省エネ基準達成率は付いていません。
Q5. 排気ダクトを部屋の中に出したままだとどうなりますか?
A. アイリスオーヤマは商品情報ページで「同室内に排熱すると室温が上昇します。ダクトの併用を推奨します」と明記しています。冷やす仕組み上、熱は必ずどこかへ捨てる必要があり、その捨て先が同じ部屋の中では冷房になりません。窓パネルとダクトを使って屋外や別の空間へ排熱する前提の製品だと理解してください。
◆アキのワンポイントアドバイス
この記事を書くために調べていて、いちばん驚いたのは「能力の欄はちゃんとある。ただし名前が違う」ことでした。ポータブルクーラーに載っているのは冷房能力ではなく冷風能力で、しかも測ったのはJISではなくメーカーの自社基準です。数字の見た目が同じ「◯.◯kW」なので、つい壁掛けエアコンと並べたくなるのですが、目盛りが違うものさしなんですね。逆に窓用エアコンは、制度の対象外なのにJIS C 9612:2013の期間消費電力量をきちんと出していました。数字が載っているかどうかより、その数字が何の規格で測られたかを先に見る。ここを知っておくと、カタログの読み方が変わりますよ。
まとめ: 数字を並べる前に、ものさしが同じかを確かめる
この記事の内容を整理します。排気ダクト式のポータブルエアコンとスポットクーラーは、省エネ法施行規則第92条の第五号・第七号によって特定エネルギー消費機器から除外されており、窓用エアコンも第十四号で除外されています。その結果、今回確認したポータブル機のカタログ・商品情報ページ・国の省エネ型製品情報サイトのいずれにも、APFと期間消費電力量はありませんでした。公表されていたのは、メーカーの自社基準で測った冷風能力(たとえば2.5/2.8kW)と冷風消費電力(830/980W)、そして同じく自主基準による適用畳数です。JIS C 9612:2013に基づく冷房能力としては公表されていないため、壁掛けエアコンの値と同じ土俵には置けません。
一方で窓用エアコンは、制度の対象外でありながらJIS C 9612:2013に基づく期間消費電力量を公表しています。同じメーカーの値で並べると、壁掛けの6畳用が717kWh(APF5.8、省エネ基準達成率87%)、窓用の冷暖房兼用機が1,316kWh(50Hz)でした。能力も畳数のめやすも揃っていないので効率の比較にはなりませんが、能力の小さい窓用機のほうが期間消費電力量は大きいという方向性は読み取れます。
電気代を知りたくてこのページに来た方には、期待した「1時間◯円」が出てこなくて申し訳ない気持ちもあります。ただ、条件の違う数字を並べた表は、選び方をかえって誤らせます。まずは窓用エアコンが据え付けられるかを確認し、据え付けられるなら公表値で比較する。難しければポータブル機を消費電力の実数だけで判断する。この順番が、いまの公表情報でできる誠実なやり方だと私は思います。

